労働契約法と労働基準法の違い

 この3月1日に「労働契約法」が施行された。これは労働契約をめぐる民事的なルールを整理したものである。でも、労働基準法はあるのに、なぜ労働契約法が必要なのか、労働基準法とどこがどう違うのか、その区別がよくわからない人が多い。

 労働契約法は、労働契約に関する民事的なルールである。内容については詳しくは述べないが、いちばん大きなポイントは、労働条件の変更は原則として労働者の合意が必要であるということが、法律の条文で明記された点だろう。双方契約の合意原則というのは、民法上は当たり前のことであり、判例法理でも確立されてきた。これ自体には目新しさはない。しかし、労働法規に明記された点は大きい。

 そして、ポイントはそれだけに止まらない。その合意がない場合は、就業規則の変更された規定が合理的であり、かつ周知されていれば、その規定は法規範性を持ち、労働者はその規定の適用を免れないということも、法律の条文で明らかされた。これも秋北バス事件などの判例法理で確立されてきた考え方であり、それが労働法規に入ってきた。

 ここで問題は、この合理性の有無を誰が判断するのかということだ。それは具体的な争いが裁判所に持ち込まれ、そこで判断されることになる。もちろん、これまでの判例法理で示されている基準も参考にはなるが、それが直接的に労使を拘束する力はない。誰かが、司法という公の場に異議申立てをして初めて、合理性が判断され、労使を拘束する判決が下される。

 つまり、労働契約法が定めた民事的ルールというものは、このような性格のものである。あくまでルールを取り決めたものだから、直接的に労働条件の合理性までは規定しないのである。その意味では、役割は民法と同じである。無視はできないけれども、基本的には当事者の納得性が基本だ。ただし、争いごとになると、労働契約法は交通整理役として大きな役割を担うことになる。

 一方、労働基準法は、労働契約の基準を、最低基準として直接的に規定している。その違反に対しては刑罰が課される強行法規なので、その拘束力は絶対的である。いちいち裁判所にお伺いを立てるという性質のものではない。労基法違反は取り締まり機関によって是正される。ここでは、当事者の納得性などは無関係なのである。

 労働契約法の条文を読むと、あまりピンとこないことも多いだろう。それは民事的ルールであるがゆえに、労働基準法のように具体的に書かれていないからだ。判例法理を整理しただけだとの批判も聞こえてくる。しかし、この労働契約法をどう生かすかは、関係者の問題である。法律として成立した点は大きく評価すべきことのように思える。


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